研究内容

研究室で進めている研究は大きく3つに分けることができます。

1.視覚の光情報変換機構の研究

視細胞には視物質に始まる光シグナル伝達系があり、これに関与する機能性タンパク質の分子特性や含有量により視細胞の応答特性が決まります。また、脊椎動物の2種類の視細胞、桿体と錐体では、視細胞特性が異なりますが、これは細胞内の機能性タンパク質の分子進化・多様化に起因すると考えられます。

そこで、視物質を中心にして、① 機能性タンパク質の分子特性やタンパク質間相互作用を物理化学的・生化学的・分子生物学的手法を駆使して明らかにすること、また、② 脊椎動物の桿体・錐体の応答特性の違いを生み出す機能性タンパク質の多様化についてアミノ酸残基のレベルで明らかにすることを目指しています。

2.オプシン類の多様性解析

オプシン類には、視細胞において視覚の光受容体として働くもののほか、視細胞以外に存在するものがあります。これらは、概日リズムの光同調など視覚以外の機能に関わる光受容体であると考えられます。一方、すべてのオプシン類は1つの分子系統樹の中に含めることができます。つまり、オプシン類はもとをただせば1つの遺伝子が多様化したものと考えることができます。そこで、各種オプシン類の分子的性質の解析から機能を推定し、さらには、先祖型の受容体から種々のオプシンが進化・多様化する過程を追跡していくことを考えています。そして、オプシン類の機能多様化の過程にどのようなアミノ酸残基が関わるのか明らかにすることを目指します。

3. Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の構造・機能解析

視物質ロドプシンは光受容体であると同時に、Gタンパク質共役型受容体(G protein-coupled receptor, GPCR)の一員であり、構造・機能相関に関する研究が進んでいます。GPCRは、お互いにアミノ酸配列の相同性のないいくつかのグループに分類されます。しかし、アミノ酸配列の相同性のないGPCRも共通の構造(7回膜貫通α-ヘリックス構造)と機能(Gタンパク質の活性化)を有するので、単なるアミノ酸配列の比較では解析できない共通の機能発現メカニズムがあると想像されます。そこで、ロドプシンで明らかにされた機能発現メカニズムがアミノ酸配列の相同性のないGPCRにも適用されるのかを、ロドプシンとは異なるファミリーに属するGPCR(たとえば、mGluRやGABA受容体、また、グルカゴン受容体)を実験対象にして解析しています。


ロドプシン

脳科学辞典「ロドプシン」

by Take Matsuyama & Yoshinori Shichida

脳科学辞典(脳科学分野の約1,000個の用語を解説し、無償で公開しているサイト)でロドプシンについて解説しました。以下脳科学辞典「ロドプシン」より一部抜粋

眼の網膜には光受容に特化した2種類の視細胞、桿体と錐体が含まれ、それぞれには光を受容するために特別に分化したタンパク質(光受容タンパク質)が含まれる。これらのタンパク質を視物質と呼び、特に桿体の視物質(桿体視物質)をロドプシンと呼ぶ。桿体には外節と呼ばれる光受容に特化した領域があり、その中には円盤膜(disk membrane)と呼ばれるパンケーキ状の膜構造がある。ロドプシンはこの膜構造の中に大量に埋め込まれて存在している。 ロドプシンはアポタンパク質と発色団レチナールより構成されており、レチナールが光を吸収することによって異性化しタンパク質部分の構造変化を起こし、Gタンパク質を介して細胞内シグナル伝達系を駆動する。光を吸収するという光受容体としての機能・特性がそのまま分子の物性を反映するプローブとして使えるため、ロドプシンは分光法によってその光反応過程が詳細に解析されており、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)のなかでも最も研究が進んでいる受容体としても注目されている。また近年ではロドプシンに近縁なタンパク質(ロドプシン類あるいはオプシン類)が多く同定されており、さまざまな生物種の視覚の他に概日リズムの光同調などの視覚以外の生理機能を担っていることが明らかになっている。

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掲載された研究コラム

Atlas of Science 「Retroduplication of rhodopsin gene 400 million years ago diversified the photoreception in fishes」

・弘報 210号 「タンパク質の進化・細胞の進化・個体の進化」

・academist Journal 「視覚進化の新モデル ? 哺乳類が失った”ピノプシン”からたどる脊椎動物の暗所視と色覚」


過去の論文の要旨

ロドプシンの基本

ロドプシン・視覚・GPCRについてよく分からないという方はまずここを参考にしてください。